04.Last concert
あいつなりのけじめだったのだろう。
言葉遣いや仕草。
可愛がる様子も、朝陽の子育てを手伝っているときを見ていたから、嫌でも違いがわかった。
親戚の子なのに――元恋人の子だから。
すみれさんが亡くなってから、その差は更に顕著になった。
注がれる愛情は、朝陽よりも葵たちの方が多いけれど。
「ほら緒方、樋山にも伝えたし、上で休もう」
「ああ……」
暁に、とんとんと背を擦られる。
葵、茜、薫が求めているのは、目に見えるものなのだ。
――目に見えないものは、もう十分に与えられたと無意識にわかってるからこその、欲求。
なんて贅沢で、なんていじらしいと思うのは親ばかだろうか。
よろよろと階段を上った真司だったが、ベッドまで体力が持たず、自室に足を踏み入れるなりとうとう膝をついてしまった。
「どうしたの、緒方。本当に顔色が悪い。準備ができたら起こすから、本当に横になれば? それとも昔みたいに膝枕にする?」
くすくすと笑っているようで、目が笑っていない。
「肩、貸せ」
「はいはい」
隣にしゃがんだ暁が壁に身を凭せ掛けたので真司もその肩の上に頭を載せる。骨のごつごつした感触と、暁が息をするたびに動く胸に緊張が緩んだ。
「今日、茜の卒業式で」
「ん」
「今まで、茜は俺に似てると思ってた」
壇上で卒業証書を受け取り、自席に戻るまでのほんのわずかな間も、親にとっては永遠に思える。
茜が席に着いた瞬間、義父母が、戸惑ったように真司を見ていた。
真司にもわかった。
真司があいつの面影を見て取ったように、義父母はすみれの面影を感じ取ったに違いない。
「じゃあ、また明日ね、茜ちゃん。本当に、おめでとう」
「おじいさま、おばあさま。ありがとうございます。また、明日」
娘が両親と義父母に挨拶するのも、どこかぼんやりと見ていた。
「俺への罰だと思った。そう言ったら、お前は笑うだろう」
「笑いはしないけど。きみがそう思うのも無理はないからね。ま、きみの言葉を借りるなら自業自得」