04.Last concert
名賀の視線に気づかないふりをし、先に乗り込んだ朝陽へ微笑むと思わず低い声が漏れた。
「……おじさま?」
「早く乗って、樋山」
怪訝そうな表情を浮かべるふたりへ、なんでもないと首を横に振る。
助手席を後ろから抱き締め、鏡越しに目の合った名賀へ口端を吊り上げてみせると嫌そうに目を逸らされた。
ゆっくりと前進する外の風景に眩暈がする。
「おじさま、おじさま、何を食べに行きたい?」
「んー……。朝陽ちゃんが決めて」
「葵くんたちって何時頃帰ってくるの?」
「今日は3時くらいかな」
「え、じゃあ急がなきゃ。ラーメンがいいな、ラーメン。豚骨」
「名賀、よろしく」
「はいはーい」
ぐっと加速していく景色と、性格悪そうに笑う名賀、勝気そうに瞳を閃かせる朝陽を眺めていると今ここに彼がいないことを不思議に思う。
時は過ぎていくのだ。
「朝陽ちゃん」
「なに?」
「……おめでとう」
それ以外の言葉は忘れた。想いを形にしたいのにできない歯痒さに慣れた自身が疎ましい。
朝陽は名賀によく似た瞳をすっと細め、「ありがとう」と優しく言ってくれた。
3人で入ったラーメン屋はなかなかおいしかった。
「でしょう?」
満足げに恭介に言う名賀へ頷く。
今度、梓紗と共に来よう。
「……ッ?」
今、俺はなんて?
「おじさま?」
「ああ、ごめんね。食べ過ぎたみたい」
「もー。炒飯がっつくからだよー」
きっと朝陽に気づかれたが、彼女はとぼけてくれた。