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03.Latest news

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 精神的な衝撃に息が詰まりそうだった。
「今更だよ。もともと葵くんはすみれちゃんに似ていた」
「お前の子と間違えられるほどにな」
 その声はあっさりしていて、動じていない彼に苛立った。
「俺はつらい」
 彼の手が離れていくのを目で追った。
「なあ、お前とぼけてる?」
「何に?」
「葵が中学生になる。――俺とお前が出会った歳だ」
「そうだね」
「お前にそっくりな葵が……」
 急に不安げに瞳を揺らめかせ、彼が頭の後ろに手を組む。
 まったくきみらしくないと言いかけて、恭介は黙った。
「中身は一番、きみに似ている。大丈夫だよ、葵くんは鈍感だから。同性に迫られても気づかないって!」
「……いや、そういう意味ではないんだが」
「確かに葵くんはすみれちゃんに似てかわいいけど」
「自画自賛だぞ、恭介」
 代わりに口を突いた馬鹿馬鹿しいやり取りも彼の不安を取り除けないらしい。
「あのさ、真司。俺、後悔してるんだよ。きみに出会わなければよかったって」
「ああ」
「……否定しないんだね。だけどきみに会わなければ今の俺はない」
「もっとまともなお前に、大人になって出会うのもありだったかもな」
 視線を交わし、ふたりで声なく笑う。
 傷を抉っている瞬間が一番気が楽、だなんて後ろ向きだ。
「俺がきみに恋をしなかったら、きっともう普通に俺も結婚してるよね。きっと子どももいた」
「意味のない仮定は嫌いだ」
「俺がきみに恋をして、きみも俺に少なからず好意をもってくれて。だからきみがすみれちゃんに興味を持って。もちろん、すみれちゃんは魅力的な女性だから、俺ときみが知り合いでなくてもきっと恋に落ちただろうね」
 それは確信を持って言える。
 同じ顔を持ちながら、恭介の持たない光を放っていた彼女は多くの人の心を掴んだ。
「ねえ、真司。もし俺に子どもがいたらさ、茜ちゃんたちのはとこになるんだよ。そう考えると不思議だね」

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