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「おかしくもなるよ。恋してるんだから」
 ――きみに。
 哀しみで苦しい。
 彼の唇が迫る。
 拒まなかったのは、この想いを消したくなったからだ。


 梓紗を裏切った罪悪感はあったものの、彼の腕の中でまどろんだ恭介は幸せだった。
 やはり居場所はここにしかないのだろうか。目が覚めても彼の心臓が聞こえる場所にいたことを嬉しく感じる自分に吐き気がした。
 最低な人間同士、ここで朽ちていく?
 そんなのだめだ。
 彼とすみれの子でしかなかった3姉弟は茜、葵、薫として恭介の中で意味を持ち始めている。
 それに、最低な人間同士、だなんて。
 どこまで卑怯な人間に堕ちれば気が済むのだろうか。
「俺、幸せになるから」
 眠っている彼に向かって囁き、腕を伸ばして髪を梳く。
 彼が身動ぎをした。あ、やっぱり寝たふりだ。
「もっと縋ってくれてもいいのに、あっさりしちゃって」
 寝たふりを続ける彼に、恭介は苦笑する。
「ああ、じゅうぶん未練がましいかな。――きみじゃないよ。俺が、だよもちろん」
 ぱっちりと彼の瞳が開いたので透き通るような白さの頬を突くとぎゅっと強く抱き締められる。
「お前は恨みがましい」
 彼は再び瞳を閉じた。
「知ってるよ」
 笑うと少し、哀しくなった。
「もうすぐ、茜ちゃんたち卒業だね」
「ああ」
「嬉しい?」
「もちろん。お前は?」
「嬉しいよ」
 薄く瞼を開いた彼がそっと恭介の頬を包んだ。
「葵がすみれさんに似てくるのが、つらいか?」

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