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「なんか……。緒方先輩も思い切りましたね」
 荷づくり紐で後ろ手に縛られる彼という反応に困る光景を見せられた恭介が言うと、彼の兄である怜司から頭を叩かれた。
 ちなみに彼はいきなり眠ってしまったらしい。
 教育上よろしくないと怜司が真顔でいうものだから、茜たちは怜司の部屋でぎりぎりまで寝かせることにした。
「おじさまは?」
「寝てる。母が俺だけ起こしたんだ」
「あー……。すみません、俺もまったく気づかなくて」
「いいえ、当然よ。あんな夜遅く」
 真顔で彼のお母さまが頷く。怜司もむすっとしながら微かに頷いた。薫が怜司の甥であることを実感する瞬間だ。
 中学のときの自分を知っている相手だと気が楽で、恭介も自然と砕けた空気になってしまう。そんな自分に気がついて恭介は少し照れた。
 恭介は昨日のことを話すことにした。彼が高1のときの記憶まで失ったこと。病院での検査では異常がなかったこと。昨晩は記憶を取り戻したこと。
 きっかけは、彼に再婚を勧めたこと。
「今、あの子は何歳なのかしらねえ」
 寂しそうにおばさまが言うのを聞くと、恭介は胸が締め付けられるのを感じた。
「笹原さんと――あなたの伯父さま、伯母さまと話しあって決めたことだったの。シンにとってよかれと思って。だけど、記憶を失うくらい負担だったなら……」
 その先の言葉は想像がつかない。
 きっとおばさま自身も気持ちの整理がついていないのだろう。
 怜司は黙ってコーヒーを啜り、おばさまは頭を抱え、恭介は茜たちにどう説明するかを考えると気が重くなった。
「おばさま。今日は葵くんたちをこちらで預かっていただけませんか。俺は真司くんを病院に連れていきます」
「ええ……それはいいけど……」
「あと、笹原の伯母には黙っていてくれませんか」
「わかった」
 今度はおばさまがしっかりと頷いた。


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