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02.Lost memory

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「謝れば許してもらえるのは子どもの特権ですね」
 葵が項垂れるのを見て、そろそろいじめるのはやめようと思った。
「今はわからなくていいです、葵くん。いつかきみに大切な人ができたときにわかるでしょう」
「恭介、俺は」
「なんですか」
「……今日の恭介、冷たい」
「そうですね。――もう寝てください。おやすみなさい」
「俺、恭介好きだから! おやすみ」
 叫んだ後で、ほっとしたように俯いた葵は階段を上がっていく。
「もしよければ俺の相手してよ」
 階段の反対側に向かってそっと呼びかけると、苦々しく階上を見上げながら彼が現れた。
「本気にするなよ」
「なにを?」
「葵のあれだ」
「好きって?」
「嬉しそうに言うな」
「はいはい、自分が言われないからって妬かなーい」
 恭介の手からコップを取った彼が流し台に置き、食器棚から新しいコップを出した。
 自分の分を淹れるついでに淹れ直してくれるらしい。
「コーヒー、紅茶、緑茶」
「んー、緑茶お願いします」
 そういえば葵は殆ど手をつけなかった。
 勿体ないからとローテーブルのそれを飲もうとすると彼に睨まれたので見せつけながら飲んでみた。
「……最悪」
「きみも葵くんに頼めば? お前の飲みかけが飲みたいって」
「言えるわけないだろうが」
「そうかな。意外と喜ぶかもよ」
「思ってないこと言うな」
「あ、わかった?」
 なんだか今日はテンションが高い。眠れないのもきっとそのせいだ。
 彼が恭介の隣に腰かけた。
「どこからが現実でどこまでが夢だったのかがわからない」
 彼がぽつりと漏らした。


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