02.Lost memory
自分らしくなく叫んでしまったが、いやそんな無理だろこんな気の利かない奴が――ホスト!?
「なんか失礼なこと考えてるでしょー。今は辞めてるよ。ご心配なく」
物憂げに前方を見るあいつに真司は命の危険を感じた。
病院に行く途中で事故を起こしたら泣くに泣けない。
一日がかりでCTとMRI、レントゲンを撮ったものの異常はまったく見つからなかった。
「女性だったら更年期の記憶障害でたまにあるんだけどねえ……。なんか精神的に強いショックがあったんだろうね。なにか心当たりは?」
あいつが呆然としている。力なく首を横に振っている。
我が事ではあるけれど、どこか冷めた目で見ていた真司は医師に向き直った。
「いつ治るんですか」
「原因がわからないからね……。時が解決するとしか言えない。職場に出す診断証明書がいるだろう。私がいるのは火か金だから、その日に取りにきてください」
「はい。ありがとうございました」
付き添いのくせにまったく用を為さないあいつの肩を抱き、診察室を後にした。
「ごめん、真司」
「……いや」
「ごめん」
「お前のせいじゃない」
「真司は……ッ!」
あいつは言葉が続かなかったようで口を覆ってしまった。
「ごめん、緒方」
あいつが見ているのは今ここにいる緒方真司ではないのだとわかっても慰める手段がない。
ただひたすら、もどかしかった。
安全運転で帰宅する途中に真司の子だという3人を拾ったが記憶の蓋を開く要因にはならなかった。
静かな車中を不思議に思い、後部座席を振り返ると3人とも読書をしていた。
「そりゃあ、きみとすみれちゃんの子だもの。みんな真面目だよ」
あいつが苦笑しつつ言うが、真司は本が好きで図書室に引き籠っていたわけではない。
「わかってるよ。きみが教えてくれたもの」