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02.Lost memory

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 2階から聞こえた悲鳴に、恭介は慌てて階段を駆け上った。
 目に飛び込んできた光景に恭介はすぐさま扉を閉めた。できれば記憶ごと抹消したい。
 涙目になった葵を抱き締める彼なんて珍しすぎて気持ち悪い。
「茜ちゃん、開けてください」
「え、嫌だよ。ねえどうしたの」
「私が訊きたいです」
 同じく駆けつけてきた茜と寝室の前でこそこそと会話をしていると、トイレから出てきた薫が首を傾げ、ひと思いに扉を開けた。
 ――やっぱり彼が葵をぎゅうぎゅうしてる。
「真司、どうしちゃったの」
「お前か」
「……え?」
「ここはどこだ。俺になんの恨みがある」
「えっと、それは……」
 なんだか今更な質問な気がする。いや、恨んではないけれども。
「葵くん、こっちに」
「それが、無理なの。すごい馬鹿力だし人の話聞かないし」
「あー……」
 懐かしい記憶に頭痛がする。
 しかも先程の会話を思い返すとお得意の勘違いまでプラスされている。
「真司、寝ぼけてる?」
「お前は誰だ」
 茜と顔を見合わせた。薫に「とりあえず名乗れよ」と囁かれ「樋山恭介」と名乗ると彼が鼻で嗤った。
「じゃあ、こいつは誰なんだ?」
 葵を指差し彼が言う。
「緒方葵」
 葵が彼を睨み返して言うと、彼はいきなり葵を解放しベッドに寝転んだ。
「え?」
 呆然と佇む葵を急いで部屋の外に放り出し、彼を揺する。
「ねえちょっと夢オチで済ませたいのは俺もなんだけどさ、寝ないでよ真司ーッ!」
「寝る。これが現実であって堪るか」

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