02.Lost memory
あいつの真剣な瞳に押されて、真司は包みを受け取った。
「お前、俺以外を愛したことは?」
「あるよ、もちろん」
事も無げに言うあいつに腹が立ち、しかし手を上げないと誓ったため怒りを堪える。
「真司。俺は後悔しない」
そんな哀しそうに俺を見るな。俺は、幸せ、だから。
「真司」
お前がいて、葵たちがいて、すみれを愛して。
強く抱き締められた。
愛された記憶が、真司を詰る。
「俺はね」
強さを宿した声に真司の背は震える。
この強さが好きだった。潰してしまったのは紛れもなく真司自身ではあるけれど。
「緒方真司を一生、愛しているよ」
歳月は人の心を変える。
異様なほど愛を怖れた少年は成長し、大人になって。
歳月は人の心を変えた。
「きょう、すけ」
掠れた声が自分のものだと思いたくない。
あいつが真司を抱く力が強まる。
ああ、この嘆きをどうすればいい。
確かに愛し、愛されていた。
*****
見知らぬ場所で目が覚めてぎょっとした。
隣には使用した形跡のないベッド。まさかどこかで倒れたのか。
最近は夜に出歩くことも少ないのに。
真司が混乱していると、あいつが姿を現した。
「お父さーん。恭介がそろそろ起きてって。それとも具合悪い?」
「樋山」
見知らぬ世界に現れたあいつにほっとした。
怪訝な顔をするあいつを抱き寄せ、唇を奪った。