図書室の主 | ナノ

03.栞を挟む時機

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 朝礼放送を恭介は呆然と聞いていた。


『立候補者が確定したのでお知らせします。生徒会長候補、一年五組緒方真司、高校副会長候補、一年五組名賀暁、一年四組――』


 一月、生徒会執行部役員総選挙。

 愛しい人は恭介に何の相談もせず、さっさと署名を集めて立候補してしまったらしい。

 にやにやとこちらを見ているクラスメイト達に言いたいことはたくさんあるが、じっと我慢。真司を盗み見れば、退屈そうに頬杖をついていた。

***

 待ちに待った昼休み、ご飯もろくに喉を通らず、母に心の中で謝って蓋を閉じた。

 過去、自分たちが散々いじめたことも忘れて、クラスから四人の候補者を出したことで微かな興奮が漂っている教室を一瞥し幼馴染たちへ告げる。


「行ってくる」

「ほどほどにね」

「……寛樹は、知ってた?」


 瑞樹や亮介に訊いても無駄、寛樹は一番口が固いからなおのこと駄目、わかっていながらも訊かずにはいられない。

 寛樹は丸い目をきゅっと細めただけだった。

 諦めて図書室へ向かう。

 彼は定位置、恭介の体温を受け入れても身じろぎひとつない。


「ひどいんじゃないの、真司?」


 読書に夢中なときの彼には何を言っても無駄だとわかっていながらも言わずにはいられない。

 聞こえてないのをいいことに、恭介は延々と恨みごとを垂れ流した。

 修学旅行だっていい子にしてたし、日常でも彼と話すことが増えて、彼の笑顔の記憶が増えていって、恋人になれるかもって期待もしちゃったのに。肝心なところで引いてしまうなんてあんまりだ。真司が出るなら署名だってしたかった。

 腕の中にいたはずの彼は剣呑な空気を醸し出していて、恭介を膝に抱えて一言。


「だって、お前は止めるだろう」


 なんだ、最初から読書なんてしてなかったのか。

 最近、近視用の眼鏡を掛けるようになった彼のレンズ越しでは恭介の姿は映らない。


「止めたよ。あんな忙しそうなところに君が行っちゃったら、俺はひとりだ」
「安心しろ。俺が生徒会長になると決まったわけじゃない。投票次第だ」


 ぽんぽんと背中を叩かれ、むくれていると頬を突かれた。

 入学当初は恭介の方が身長が高かったのに、いつの間にか頭一つ大きくなってしまって子ども扱いされることが増えた。


「それにお前には、岸本瑞樹たちがいるだろう」

「……ん」

「それにしても、本当に気づかなかったとは思わなかったな」

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