01.図書委員の日常
「そうだよ、確かに今は俺の一方的な片思いだよ。きっぱり振られちゃったよ。だけどいつか振り向かせてみせるからねダーリン!」
「気持ち悪い!」
本気で亮介に蹴られた。その痛みも今まで心配掛けた分、そしてこれから迷惑掛ける分だと思って甘んじて受け入れた。
朝休みの終わりを告げる予鈴が鳴る。
「じゃあね、緒方! 愛してるよ!」
「……うるさい」
もう怒る気力もないといった様子でげんなりと緒方が呟き、樋山は2Aへと戻って授業準備を整えた。
もうすぐ夏休みが来る。それが過ぎれば緒方と話すようになって1年が経つ。
たった1年の片想いはつらくはなかった。彼との思い出がどんどん増えていく日常。幸せだった。
想いが返ってこなくてもいいと言ったら嘘になる、けれど……。
今は好きなのだ。
どうしようもなく、彼が好き。
夏休みはふたりでどこかへ行きたいなあと授業そっちのけで計画を練る樋山の頬を夏の風が優しく撫でていった。
***
春休み2日目の朝。起きたら母から封書を渡された。送り主は学校。恭介は大きく息を吐いて中身を見た。
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2年A組37番 樋山恭介
夏扇学園中学3年次において応用クラスへの選抜をここに記す。
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「お母さん、俺、A組入れた」
「まああの成績なら当然じゃない?」
「ここで終わりではないので、頑張ります」
「はい、頑張ってね」
まったく動じる気配のない母に苦笑し、改めて自分の名をなぞる。成績には自信があったものの嬉しいものは嬉しい。彼にも報告しようと自室へ駆け戻りケータイに打ちこむ。
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To:真司
Subject:
入れた。
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ベッドに転がり彼の返事を待つとすぐに返事が来た。
「“今はそっとしておいてくれ”……?」
口に出したあと青くなった。まさかそんな彼が。同時に浮かれていた自分を責めた。中一のときの緊急連絡網を手に取り彼の自宅へ電話を掛ける。
「もしもし、いつもお世話になっております樋山恭介です。真司くんをお願いします」
「……俺だ」
「真司っ」
どうしよう。謝るのは変だ。しかし何を言っていいのかわからない。
「――っく」
向こうから声が漏れてきて余計に焦る。何か、何か言わなくては。そう思ったときに真司が大声で笑いだしたものだから呆気にとられてしまった。
「真司!」
「悪い悪い恭介、からかいすぎた」
「てことは?」
「同じクラスだ」
ほっとして気が抜けて頭がくらくらしてきた。同時にむっとしてつい口調が刺々しくなってしまう。
「真司、趣味悪いよ。どうしようかと思った」
「悪かった」
「ん……。真司、好き」
何ひとつ解決していない日常。
だけど、勉強中心のクラスに入れば苛める暇がなくなる。
クラス自体は、平和。
「真司」
おそらく受話器を抱えて真っ赤であろう彼にもう一度、囁く。
「愛してるよ」
おわり