06.修学旅行の夜
――『想いが欲しかった。でも得られない。得られないのなら意味がない』
――『未練が募るのは嫌だ』
――『抱きしめるだけで、いいから』
冷たい瞳で言い放った彼が欲しがっているのは、恋人。
じゃあ、俺はいつから彼の気持ちに気づいていたのか、とか、俺はどうしたいのか、とか考えたとき目が覚めた。
ひとりの部屋。時間は午前一時。
「夢」
口に出すと苦笑が漏れた。いったい自分は何に怯えているんだか。
今、秋一は何をしているんだろう。
ここ最近、夢に見るのはあの日までのハイライトで、夢の中の彼は記憶の中のそれよりも不安げな表情をしていて、余計に焦る。
ふと思い立って引っ張り出してきたのは高1の修学旅行の写真。
同じ班で撮った、あの妙にテンションの高い夜。
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中高一貫だったため修学旅行は中2と高1で、あれが最後の宿泊行事だった。
クラスみんなでこっそりまくら投げをしようと決めて、級長樋山の部屋にみんなで集まった。
暗闇の中、潜み声でもきっちり点呼したのはまったくあいつらしいとしか言いようがない。
「――秋一は?」
「真司もいねーよな」
「まじかよ。っつーかヒロもいねーし」
「おいおい幼馴染なにしてんだよー」
「いや、俺保護者じゃないし」
「俺、見てこよっかー?」
ひそひそ声と柔らかい笑い声に真剣な樋山の声が混ざるのはおもしろかった。
「いや、担任見回り来たらやばいし……。いないのは緒方、秋一、名賀、草場、ヒロ、五人だな。じゃあ、チーム組み直すか」
「なあ、あいつらちくってんじゃねー?」
そう言いだしたのは誰だったか。室内がしんと静まり返る。
「ありえない」
きっぱり言ったのは寛樹の幼馴染である亮介で、彼が言うならとみんなも渋々といった感じでそうだね、と頷いた。それでも文句言う奴はどこにでもいる。
「同じ班のやつら何してんだよー」
「これからのことに夢中で気づかなかったんだろ。はい、組み直すよ。6班解体して適当に他の班に入ってー」
級長樋山は冷静に指示を出していた。一瞬、彼と視線が交錯する。頼む、と言われた気がした。