初デート
瑞樹の引きとめる言葉を聞かずに、秋一は恭介へひらりと手を振って、来た道を戻っていた。
「むすくれるなよ、瑞樹」
そして現在に至る。
「なんで恭介が離れなかったのか」とは、瑞樹は言わない。恭介も謝らない。瑞樹の自業自得であるとわかっていたからだ。
なにより、秋一自身の意識が変わってないのだから、今回だけうまく事を収めたところで意味がない。
「秋一さあ、まだ、優先順位、低いんだね」
「……ん」
秋一は驚くほど自尊感情が低い。
瑞樹への愛情をひた隠しにしていたことも、瑞樹からの愛情を拒んだことも、すべてはそこに起因する。
恋人となった今ですら、秋一は瑞樹の中で自分の優先順位が低いと思い込んでいる。
恋人である秋一と幼馴染である恭介なら、恭介を取る。
秋一は本気でそう信じているのだ。
それは、瑞樹が悪い。
そして、瑞樹は秋一のそんなところも受け入れると腹を括った。
「恭介」
「なに」
「俺、もっと、愛するよ」
情けない顔をした瑞樹に、恭介は黙って頷いた。
2015.09.13.