知人と言い張るきみ | ナノ

08.幼馴染の存在

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「痛い! 痛いって瑞樹!」
「うるさい……」


 そっと溜め息を吐いたとき、耳が廊下の足音を拾った。

 いつもは気にも留めないのに、やっぱり彼だからだろうか。

 岸本と樋山の視線が交差したのは一瞬。躊躇うことなく樋山は病室を飛び出した。その背に向かって呟いたごめんはきっと聞こえていない。


「来ちゃったね」


 寛樹の表情も硬い。亮介は窓の外をぼんやりと眺めていた。


「しゅ――んとあいつ――なきゃ――」
「嫌だかえ――えてく――」
「――んで伝えろ」


 秋一と樋山の応酬が途切れ途切れで聞こえてくる。


「瑞樹、ちょっとごめんね」
「わ」


 勢いつけて寛樹が起き上がりその反動で体がベッドに沈む。


「我慢しろよ。俺だって我慢するんだから」
「は――?」


 寛樹に押し倒された格好で気づけば奴の唇まで数ミリ。それでも傍から見ればキスしているように見えなくもない、っていったい何をしているんだ。最悪のタイミングで足音が止まる。

 さっきまでなかった気配がすぐそこに。

 あれだけ会いたかったのに、全然嬉しくない。

 寛樹が体を起こし、視界が広くなる。どうしよう今起き上がりたくない。


「秋一、5日ぶりだね。元気? 夏バテしてない?」


 しれっとした顔で言っているであろう寛樹の声を聞きつつ岸本は冷や汗が背中を伝っていくのを感じた。


「してない」


 秋一は普通の返答をした。体を起して恐る恐る彼を見ると目が合いすぐに逸らされた。


「意識が戻ったならいい。帰る」
「待ちなよ秋一」


 黙りこくっていた亮介が秋一の腕を掴んで引き留める。振りほどこうともがいているが外せていない。秋一の方へ行こうとして、こちらも体が動かせないことに気づいた。寛樹に腕を掴まれている。


「離せよ」
「嫌。――ねえ、ふたりとも何を隠しているの?」

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