08.幼馴染の存在
「はい、ヒロも起きる。樋山も亮介も座ってくれ」
「さんきゅ」
「実はちょい疲れてた」
「えーこのまま転がってたいんだけど」
「……ここ俺のベッド」
「けち」
「ヒロ邪魔」
「乗っちゃえ」
「うわ重! ギブギブ、ごめんって! 瑞樹助けて!」
「嫌」
立ちっぱなしで疲れたふたりに楽しそうに圧し掛かられ本格的な呻き声を上げる寛樹を助けようなんて思わない。
しばらくして気が済んだのか二人もベッド脇に腰かける。
寛樹は退く気がないらしく寝そべったままだが放っておこう。
「あー、洒落にならねえよー。で、ほら、栄養失調の理由をどうぞ!」
「そんな朗らかに訊かれても」
正直に答えるべきか否か迷って、事実だけを告げることにした。
「アンパンを四等分して、朝4分の1、昼4分の1、夜2分の1食べる生活が3週間ほど続いてね」
三人が引いているが事実だから仕方がない。
「お前……秋一みたいなことすんなよ」
ぼそりと亮介から呟かれた彼の名にどきりとするが幸い誰も気づいていないようで詰めていた息をこっそり吐いたのに。
「秋一と言えばさ、この前来てたよな。会った?」
樋山が何気ない様子で訊いてくる。答えに詰まった。
「……いや」
「へえ残念。あいつ失踪中だったじゃん。駄目もとで【岸本入院中】って送ったらさ、返信あってさ。病院にまで現れて。まったくお騒がせだよな」
困った困ったと言いつつ樋山の表情は柔らかい。この他者への理解も月日のなせる業なのかと思う。
「俺も会いたかったな」
紛う事なき本心が零れる。今なら自分の気持ちから逃げないのに。
「まあ、また来るさ」
慰めるように寛樹が言う。なんとなく悔しくて、彼の腰の上に座った。