07.母との会話
「あのね、瑞樹。基本、法に触れたり人に迷惑かけなかったらあなたのしたいようにしていいよ」
「はい」
「で、どうしたの?」
「言いたくない」
母が微かに溜め息を吐くのを聞いて体が強張った。
「みーくん、横、見える?」
「見えない」
「じゃあ、起き上がれるようになったら見てちょうだいな。いろんな人がお見舞いに来てくれたから」
「……はい。ご迷惑をおかけしました」
「いいのよ、親だもの」
前髪に指を差しいれられる。久しぶりの母の感触に、ついうとうとしてしまう。
母は優しく笑った。
「瑞樹。お父さんもお母さんもね、孫の顔、見れなくてもいいよ」
ひやりと背筋が寒くなった。怖くて母の顔が見られない。
自分が眠っている間、いったい何があった。混乱している岸本をよそに、母はゆっくりと話を続ける。
「見たいよ、見たいけど……。お父さんとお母さんが死んだあとも瑞樹は生きていかなきゃいけないよね。そのとき、瑞樹が好きな人と一緒に歩めるのが一番だと思ってる。本当だよ」
母の体温が離れていく。それを目で追うと、母と目が合った。
「お母さんからは、これだけ。無理しちゃだめよ。明日、お父さんと一緒に来るからね」
「……はい」
ドアが閉まる。
好きな人と、歩む。
なんで母が知っているのか、とか、反対されなかった、とか言うよりも、自分は彼を好きなのか、そちらの方に気を取られてしまった。
岸本が秋一を好きという前提でなければあの会話は成り立たない。
「俺は、秋一が好き……?」
改めて口に出すと、胸が疼いた。
岸本が欲しいのは親友。
秋一が欲しいのは恋人。
じゃあ、なんのために今、自分たちは頑張っているのか。
――ずっと一緒にいるためだ。
とっくに出ている答えから目を逸らしたくて、また眠りに落ちた。
おわり。