06.修学旅行の夜
秋一の手を叩きくすぐるのをやめさせてから彼に言う。
「俺、樋山に報告してくるよ」
「何を?」
「まくら投げ大会不参加メンバーはこっちにいるから、就寝のときはみんな別の部屋に行ってくださいって」
「そんなガキっぽいことしてんのか」
「まだガキだからいーの。ほら、秋一は寝てなさい」
彼を布団に押し込もうとすると、ジャージの胸倉を掴まれた。相変わらず無表情で何を考えているかわからない。
「僕も行く」
「あ、そう……」
ならば、この四人が起きないうちにと二人でこっそりと部屋を抜け出した。
樋山の部屋はすごい緊張感に包まれていた。
無言で枕が飛び交っている。しかもみんな目が真剣だ。
「わりいな、瑞樹」
「いいよ。眠いのは事実だ」
樋山に事情を話すと苦笑いして礼を言われた。
興味深そうにまくら投げを見つめる秋一に、残るかどうか訊いたら首を横に振ったのでふたりで帰ってくる。
「じゃあ、このみんなで雑魚寝だな。おやすみ」
電気を消して隅の布団に寝転がるとその隣の布団に秋一が寝転んだ。
「怖い話でもするか」
「やめてくれ」
彼なりに気を遣ったのかもしれないが、そういうのが苦手な岸本はすぐに却下した。
暗闇の中でも彼が不満げな顔をしているのがわかる。
はあっと大きく息を吐くと彼の体がおもしろいくらい震えた。
「ねえ、秋一」
「なんだ」
彼の顔が見えないように寝返りを打った。彼も反対側に寝返りを打った気配がして小さく笑った。
「本当は、まくら投げに参加したかったんじゃないの」
「別に」
「秋一、本当にみんなのことが好きだよね」
返事がない。眠ったのか。それでもいい。今しか言えないことがある。