知人と言い張るきみ | ナノ

06.修学旅行の夜

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 別に、頼まれたからってその通りにしなくてもいいはずなのに、岸本が頷いてしまったのは唯一ここにいない班員のことが気になったからだと思う。


「俺、ねみーから帰るよ」


 傍にいた班員たちに囁くと案の定抗議が。


「ええー!?」
「逃げんのかよー」
「いや、俺、いつも十時に寝る主義だし」
「ガキじゃん!」
「いーんだよほっといてくれよ! じゃ、そういうわけでお先に」


 班員どころかクラス殆どのブーイング。

 苦笑いしながら彼らを宥めて、さて誰の班から回ろうかと思案する。

 困ったことに殆どみんなバラバラの班だ。とりあえず自分の部屋へ戻って、秋一がいるかどうか確認しようと電気をつける。


「えーっと……」


 どうしよう見なかったことにしたい。

 冷静に電気を消す。

 もう一度つける。――やっぱり、いる。

 五人、秋一はこの班だからいいとして、他の四人がいるのはどういうことだ。

 布団を敷いてまくら投げに向かったけれど、それに他人が寝てるってどうなんだ。

 しょうがない、まずは樋山に報告しに行こうと電気を消したとき足首を掴まれ悲鳴を上げそうになると口を塞がれた。

 ぱちっと電気がつく。無表情でこちらを見下ろしているのは秋一だった。


「岸本、うるさい」
「さ、叫ぶ前に秋一が止めたから叫んでない」
「表情がうるさい」
「ひどい……。ていうかこの状況は何」
「寝てるうちに班員がいなくなったと探しに来て、とりあえず寂しいからこの部屋に集まった」
「なにそのかわいい理由」


 幸せそうに眠りこけている四人を見下ろす。岸本は何を思ったのか緒方の頬をくすぐりだした。やめろ。

 一班六人だから、みんなで雑魚寝してもぎりぎり大丈夫か。


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