05.朝
「お待たせしました。ほら、食べよう。いただきます」
二人でとる朝食。
秋一は何も話さない。
岸本も何も言えない。
秋一が会いに来たのが4月の始まり。
そして今、7月。
秋一が浪人していた一年間は会わなかったのに、この三カ月がやたらと長く感じられた。
これからまた4月まで、もしかしたらもっと長い時間会わないことになる。
沈黙が苦になる相手じゃない。
それでも何か考えることが欲しくてそしたら嫌でも昨夜のことが思い出されて頭を軽く振る。
昨夜、秋一と約束をした。
彼は泣いて、泣き止んで、風呂に入って。
せめて抱きしめて寝てくれないかと言われ、彼を不安にさせている原因は間違いなく自分にあると自覚している岸本は秋一を抱きしめて二人とも無言のままいつの間にか寝入ってしまった。
食べ終わって、食器を洗って、もうこれ以上時間を引き延ばすのは無理だと岸本が思ったとき、秋一はやわらかく笑った。
「じゃあ、僕はもう行く」
「……そっか」
「駅まで送れ」
「言われなくても」
歩いて駅に向かう間も無言で、とうとう彼は改札をくぐる。
秋一は振り返らなかった。
彼の消えた階段を見つめ、立ち尽くし、叫びだしたい衝動に駆られて口を覆った。
俺が言いだしたことだ。
自分で決めたことだ。
彼のせいにして、自分を守るために吐いた言葉だ。
動かない足でいつ、どのように家に辿りついたのか岸本には記憶がない。
何をする気力もなくて、転ぶように洋室のソファに倒れ込んだところでテーブルに分厚い封筒が置かれているのが見えた。
【瑞樹】
軽く崩したのに綺麗な秋一の字に、どくんと心臓が大きく音を立てる。
【瑞樹】
ゆっくりと自分の名前をなぞる。震える手で封筒を開けた。