05.朝
朝起きたら秋一を抱きしめたままで、そんな自分に苦笑しながら時計を見る。
5時半、いつも通りだ。
秋一を起こさないよう静かに布団から体を起こして彼の寝顔を観察する。
岸本が眠った後また泣いたらしく涙の跡らしきところがぱりぱりしていた。
とりあえず昨夜のことは夢ではなさそうだ。
秋一が目を覚ます前に朝食を作るために立ち上がろうとすると腕を掴まれ、こちらを睨む秋一と目が合う。
「おはよう」
一音一音、はっきりと発音する彼が怖い。逃げないって。
「……おはよう。早かったね。まだ5時半だよ。ゆっくり寝てていいよ」
「朝食、僕が作る」
「火災保険入ってないからやめて」
ふむ、と不満そうに鼻を鳴らすが納得したらしくほっとした。
「パンとご飯、どっちがいい?」
「ご飯」
「了解」
ゆっくり立ち上がった彼はまっすぐ岸本を見つめる。
自分で言いだしたこととはいえ昨日の今日、気まずくて思わず俯いたら額を押され必然的に顔が上がる。首がバキッと嫌な音を立てた。
「なあに?」
「……」
「秋一」
「お茶をくれ」
「はいはい」
キッチンと和室の襖を閉めようとしたら無言で止められた。
とりあえずお茶を注ぎ彼に差しだす。
「ありがとう」
コップ一杯のお茶を一気飲みした後、秋一はリュックを漁り始めて岸本に見向きもしない。
その間に朝食を作って洋室のテーブルに並べる。
一人のためだけのテーブルは狭いけれど、どことなく幸せを感じる。
ふと視線を感じて振り返るといつの間にか着替えた秋一が突っ立っていた。
「先に食べてて」
慌てて岸本も和室で着替え洋室に戻る。
朝食は手つかずのまま。秋一はぼんやりと虚空を見つめていた。