知人と言い張るきみ | ナノ

04.空白の時間

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 ああ。秋一の言いたいことが、なんとなくわかってしまった。


「ねえ、秋一。君のそういうところ、本当に好きだよ」
「今、それを言うのか」
「うん。だからね、偉いよ秋一。ちゃんと大学に通いながら、夢を追いかけるんだね」


 不機嫌そうな瞳に囁くと瞳の奥に光が戻ってきた。


「夢、じゃない。目標だ」
「そうだね。目標」
「岸本、好きだ」
「それ、食事前に聞きたかった」
「友達はいらない」
「またそんなこと言って。わかってるよ、俺ら親友だからね」
「岸本!」


 振り返って、泣きそうな秋一を力いっぱい抱きしめた。


「今の君なら、俺は壊れない。だから、怖がらなくていいんだよ秋一。俺はちゃんと君の親友でいられる」
「友達にしかなれないんじゃなかったのか」
「友達はいらないんでしょう。じゃあ、親友だね」
「きしもと、っ」


 ずるいってわかってる。

 満たされるなら、親友でも恋人でもいいはずだ、なんて彼を否定して。

 彼の心に暗示を掛けて逃げようとして。

 彼の嫌いな、交友関係の呼称まで使って。

 言い訳するならば、一時の感情に身を任せるにはいかないから、なんてかっこつけて目を逸らす。


「秋一、約束しよう? あのね――」


 彼の耳元で、ゆっくり告げる。高校在学中から考えていたことではあった。

 信じられないというように彼は顔を上げて岸本を見た。

 岸本は微笑んで、秋一の頭をまた肩口に埋めた。

 聞きたくないというように胸板が叩かれる。それでもやめるわけにはいかない。

 その力も段々と弱まってきて、秋一の押し殺した泣き声を聞いていたらなんだか妙にすっきりしてしまった。

 ああ、これで俺も後戻りできないねえなんて思いながら彼の頭を撫でる。

 岸本と秋一の約束は、果たされるそのときまでふたりだけのものだ。


おわり。

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