03.得るために望む
けれど、それがなぜ失踪の理由になる。
「秋一」
どんなときも僕が一番な秋一が怯えをみせる。きっと今自分はひどい顔をしているのだろうと思ったが引く気はない。
「なんで、いなくなった」
「岸本。僕は友達はいらないんだ」
すぐに無表情の仮面を被るくせに、声だけは泣きそうに歪められたまま。
「はっきり言え」
「嫌だ」
ぐっと引き結ばれた唇。こうなったらもう何が何でも口を割らない。
溜め息を吐きそうになるのを堪え、軽く頭を振った。
さて、どんな言葉を選べばいい。
「秋一。心配した」
秋一の肩が震えるのを冷静に見つめる自分に、吐き気がした。
「待ってた。友達だから」
たぶん、俺の想いと秋一の想いは違う。ひどいとわかっていても言わずにはいられない。
「秋一が嫌いな人の中にも、秋一のことが大好きな人がいる。俺も好きだ」
「……満たされない」
「わかってる」
「わかってて、かわすんだな」
「俺は友達にしかなれない」
包み込みたいと思う。でも、手を伸ばしても彼の大きさに自分は壊れてしまう。
「俺を、壊せるか」
「嫌だ」
「友達じゃだめなのか」
「不十分。そもそも友達ですらない」
駄々をこねているようで妙に納得するのは、彼が近くに本当に人を置かないから。
彼は、自分が人を壊してしまうことを知っていて、なお、人を求めずにはいられない。
「俺なら壊してもいいと思えたんじゃないのか。そういう好きじゃないのか」
「壊れて、僕をひとりにして、どうするんだ」
自己中心的な王子さま。好んで孤独に身を置く癖に誰よりも光を渇望する。
「そのときはまた、別の誰かを探せばいい」
秋一が机に突っ伏した。ふてくされているのがわかって、岸本はやっと笑った。
「……最悪だ」
「そうだな」
「岸本のせいなのに」
「人のせいにするのはよくない」
「いつか、壊してやる」
「どうぞ。まずは買い物に付き合って」
「――買い物?」
「カニ玉。君が言ったんでしょう」
まあるく見開かれた目を見て、もう一度笑った。
壊れるにしても壊されるにしても、まだ時間はあるらしい。
おわり。