02.好きな食べ物
【今、どこにいる】
秋一が最後に誰かと連絡を取ったのは岸本と別れた直後。
その翌日から返事がないと知って岸本も彼の失踪を知った人が送ったに違いないメールを送ろうとして、やめた。
秋一が最後に会ったのが自分かもしれないと知ったとき岸本は理由を考えた。
事件に巻き込まれたのか。自主的にいなくなったのか。
真相がどちらであれ、誰も驚かないだろう。
事件に巻き込まれたなら、なんで我が家の付近で。
自主的にいなくなったなら、なんで最後が俺なんだ。
【待ってる】
悩んで、送った。気持ちは晴れない。
ただ、ひとつ決めた。
返事があるまで一日一通、メールを送ろう。
【カニ玉】
【ニラ玉】
【焼肉】
【お好み焼き】
料理しか思い浮かばないのが自分でも情けない。
せめて秋一の好きだったものを思い出そうと記憶を遡るがまったく出てこない。
街に出て、秋一の思い出とひっかかりそうなものを探した。
卒業アルバムを見て、彼との記憶を掘り起こして。
街の中、道行く人の顔を見て、彼を探して、あの不機嫌そうな目が見つからないことに哀しくなって、でも探すのをやめられない。
「秋一、どこにいるんだよ」
ぽつりと口を突くひとりごとに自嘲する。
そもそもなんで俺はこんなに必死にあいつを探す。
――親友を探している自分が好きなだけだろう。なあ、自称親友。
秋一ならきっと、そう言う。
そしてそれはあまり外れてないと岸本自身も思う。
探して、探して、見つかったときには大喜びして。
――心配した、と言葉をかけてやって、人を信じようとしない秋一に信じてほしいのだ。
いろんな人が、君のことが大好きなのだと。
「は……」
いくら感傷的になっているとはいえ零れてきたのが涙だとは思いたくない。
「探さなきゃ」
口に出して、鼓舞して岸本は前を見た。
ここで諦めたら親友の名が廃る。
おわり。