「じゃあ、友達にならないといけないじゃない。それだと距離を置いてないよ」
「あのねえ、お友達からってのは逃げる口実なの」
「草場が本気にしたらどうするの」
「……付き合っちゃえば?」
「いーやーだー!」
真朝ってこんなに短絡的だったか? いや違う、面白がっているのだきっと。
「暁、食わず嫌いはよくない」
「真朝は女の子と付き合えるの!?」
「無理」
「即答するなら弟に強要しないでよ!」
にやにや笑っている真朝。最近、自分の方が優しいのではないのかと思う名賀である。
姉の部屋を出て自室に籠ると涙が出てきた。
緒方の我儘に付き合って。
草場に付き纏われて。
倉木を好きになって。
馬鹿みたいだ。
どうせなら草場を好きになればよかったのに。
*****
「暁、愛してるよ」
「ありがとう」
自身へ言い聞かせるように、名賀ははっきりと声で言った。
草場がにっこり笑ったまま固まっている。
事情を知った緒方はちらりと名賀を見ただけで、さっさとやれと言うように手元の本へ再び目を落とす。
ひどいなあ。
仮にも――本当に仮、だ――恋人が別の男に逃げるというのに。
「君は人生で100回、恋をするんだね。でも、俺にとっては最初で最後の恋かもしれない。――俺と、付き合って恋人になろうよ」
上辺だけの言葉。
草場が自分の頬を抓っている。
今は、好きではないけれど。
いつか君を好きになれたら。
――倉木のことを忘れられたら、いいと思う。
それまでは草場で我慢しててあげるよ。
おわり。
20121215