招き寄せられるままに草場とふたり、緒方に近づくがちょっと待てふたりとも。
他のクラスメイトたちが引いてる。
というより、俺の意思は?
逃げようと身構えた名賀へ緒方は困ったように笑った。
珍しいものだ、と思った瞬間、緒方が草場を抱き寄せ口づけた。
クラス中が静まりかえる。
長く、長く。
視覚的なそれは聞こえないはずの音まで聞こえてくるようで名賀は思わず耳を塞いだ。
目を閉じたいのに、閉じられない。
「しっかりと、見たか?」
草場を嘲笑うような声。
緒方が平然と口元を袖で拭い、草場は呆然としている。
「な、んで」
「付き合ってんなら今ここでキスをしろ。悠太はそう言ったな?」
「――緒方」
「暁とキスしろ、なんてお前は言ってないぞ?」
誰がどう聞いても屁理屈だが、緒方が言うとみんな逆らえない。
「暁……。浮気して悪かった」
名賀へ向き直った緒方が頭を下げる。
いや、浮気も何も俺、緒方と付き合ってないし。とはこの場で言える状況でもない。
というか樋山。お前の恋人は誠実なんじゃなかったっけ。
今ここにいない元クラスメイト兼生徒会監査に心の内で悪態を吐く。
樋山なら、どう言うだろう。
「いいよ。俺は緒方を信じてるから」
好きだから、ではない。
信じているから。それは名賀の本音だ。
好きでもない人間とキスをして、正直な緒方が自身の心を騙し続けられるはずがない。
きっと、気がついてくれると信じている。
緒方はまた、困ったように笑った。
授業開始のチャイムがクラスの凍りついた空気を割った。
*****
放課後、生徒会室に行こうとしたら廊下で草場に阻まれた。
「なんで暁は俺と付き合わないの」
「緒方がいるから」
「じゃあ、緒方と別れたら俺と付き合ってくれる?」
「ビジュアル的に無理」
人として言ってはいけないことだと自覚しつつも名賀は言う。これが一番、わかりやすいのだ。
「ビジュアル的に、緒方と樋山だと女の子たちがじゃれてるみたいでそんなに嫌悪感がないんだよ。この前、緒方と草場がキスしてて思った。片方が綺麗かかわいいならまだマシ。でもお前は男らしいし」
「……整形してくる」
「……は?」
「整形してくるっ! 校則に、眉や髪の規定はあるけど整形については書かれていない!」