いつかあなたに恋をする | ナノ

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 家に帰り、草場の件を姉の真朝に相談すると呆れられた。

「告白を後腐れなく断る方法? あんたたちお得意の台詞があるじゃないの」
「“男同士なんて気持ち悪い”」
「そう、それ」
「それだと後腐れがあるから困ってんだよ」
「なんで?」
「草場の気持ちを傷つけるし、下手したらいじめが始まる」
「別にいいじゃない。暁が傷つくわけでもないしいじめられるわけでもないんだし」

 悪びれた様子もなく、真朝は事もなげに言う。名賀がこの姉と血が繋がっていることを強く感じる瞬間である。

 そりゃそうだけど、と心の中で呟きつつ本人には言えない。この姉の弟をやっていくのもなかなか大変なのだ。

「大丈夫だって。その人、人生で100回恋をするんでしょ? しかもあんたが最後ならともかく、最初なんでしょ? すぐに別の人を口説くって」
「うーん……」
「そんなに気になるなら計算してあげる」

 ルーズリーフを広げて姉は愉しそうだ。横から名賀が覗きこんだのを確認すると、姉はシャープペンシルを走らせる。

「まず、30歳で結婚するとするでしょ。今が17歳と仮定して、残り13年。結婚してからも恋する人じゃないのよね?」
「うん」
「じゃあ、100÷13……。面倒だから10とする。すると1年に10回恋をすることになる。1ヶ月と少しの我慢だね」

 他人事だと思って、いや実際に他人事ではあるが真朝は興味を失いかけているようだ。

「真朝、なんでそんなにやる気がないの」

 姉は憐れむように名賀を見る。

「あのさあ、暁。なんて言われたか、もう一度言って」
「えー? 人生で100回恋をして俺が記念すべきひとりめ、みたいな内容」
「別に付き合ってくれって言われてないじゃん」

 確かに。
 そこは気がつかなかった。

「緒方くんと駆け落ちするのはこっちに迷惑が掛からない程度にやってね」
「……しないから」

姉の勘違いを正そうと言い訳をいくつか考えたが、うまく口にできない。
すっかり興味を失った真朝はベッドに寝転がっている。

*****

緒方とその恋人が生徒会室で睨み合っているのを見た瞬間に、名賀はそっと扉を閉めた。
緒方の恋人、樋山は委員長代表として生徒会執行部の監査役も兼ねている。あの真面目なふたりが私情を挟むわけがないから、きっと提案書の解釈で揉めているのだろう。

早く仲直りしてくれ。
相思相愛のくせに、いったい何に怯えてるんだ。
こっちなんて緒方が口から出まかせに付き合わされて迷惑だというのに。

「わお、元彼との修羅場をこっそり見守る今彼ですね」

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