03.王子は現在夢の中
「終わらせたんだろう」
苛立ちと哀しみの混ざった声だった。
「お前が、一方的に、終わらせたんだろう、暁」
扉を開けていた樋山の腕を掴み中へ引き入れ、緒方が鍵を締めた。
男4人が立つには狭い玄関だが、緒方の鬼気迫る表情を見ていたらそんなことがどうでもよくなってくる。
「俺は疑問だった。元々、お前が草場を愛しているようには見えなかった。だけど、おじさんたちが亡くなった。お前は草場に逃げた」
「ちがう」
「だけど草場からも逃げたくなったお前は、名賀が妊娠したことをいいことにすべてを壊した」
「違う」
「どこが違うんだ!」
緒方が怒鳴った。朝陽が泣き始めた。
「いい加減にしろ、この卑怯者が! 中途半端なんだよ、やることなすこと! 俺に言われたくないだろうがな! 名賀や朝陽ちゃんを守ろうとするのはいい! 俺の突っ込むところじゃない! だけど、草場から逃げる口実にするな!」
緒方の叫びはすとん、と悠太の心に突き刺さった。
別に、よかった。
暁から本当は愛されていなかったかもしれない、と思っていた。
だけど、それでもいいと思っていた。
初めて暁に告白したとき、ここまで本気になるとは思わなかった。
すべては後付けの理由。
「俺から離れたかったのなら、ちゃんとそう伝えてくれればよかったのに」
ぽつりと口を突いた言葉に、自分で嗤った。
あのときの異常な精神状態だった暁にそれは酷だったとわかっていてもなお、ヒトは身勝手だ。
「別に、俺はよかったんだよ? ただ、おじさまたちがいないきみが可哀想だから一緒にいてあげただけ。なのにいきなり『子どもができたから別れる』って言われてもねえ。なに自惚れてんの? って思っちゃうよね」
彼を傷つける言葉を吐く間、気持ちが良かった。告げて、すっきりした。
暁が信じられないという瞳で悠太を見ている。朝陽の泣き声がうるさい。
「人を馬鹿にするのも程がある」
うんざりしたように留めを刺すと、もう、心から笑える。
「出ていってよ。邪魔」