03.王子は現在夢の中
「どこか寄るところある?」
「いや、買い出しは緒方が行ってくれたから大丈夫」
当然のように暁が答える。まさかこの幼馴染ふたり、縒りを戻したんじゃないだろうなと胸の内でぼやき、悠太は鎌を掛けることにした。
「考えるまでもなかったんだ。暁がそんな不誠実なことをするはずがないって」
「……黙れ」
瞬時に怒気を孕んだ彼の声に、悠太はほっとした。駄目だよ、暁。さらりと流さなきゃ。口端が上がりそうになるのを押さえつつ、悠太はサイドミラーを睨む。
「もう少し、俺を頼ってくれてもいいんじゃない?」
「黙れよ」
「暁は俺を愛してくれたもん。俺は、愛されていた自信があるよ」
暁は何も言わなかった。
駐車場に車を停めると、暁は娘を抱えて飛び出してしまった。
ベビーカーを運べってことかな、と誰にともなく呟き、それを小脇にかかえると階段を上り扉を開ける。
これは修羅場って言いますか? 緒方が飄々とした顔で暁に首を絞められていた。
「緒方は何も言ってないよ。未だに口を割らない。だから、これは俺の憶測。――当たったみたいだね」
最後のひと押し。
暁よりも緒方の方が切なそうな顔をしていた。幼馴染ふたりを守るための嘘をきっと彼も吐き続けている。
裏切られたわけではないと、証拠もないのに確信できた。嬉しさと同時に自己嫌悪感に苛まれる。――これって、確かめて何になるんだ。
悠太を巻きこんだのは悠太のためではなくたぶん、暁の受け皿となるため。
暁がゆっくりと緒方から手を外した。
「俺が暁を信じていれば、もっと早くに気づけた。暁が嫌じゃないなら、朝陽ちゃんを育てるの、俺に手伝わせてほしい」
「嫌だ」
息を殺して咳き込もうとする緒方の背を擦っていると、緒方に腕を掴まれた。やめろ、それはお前にとって枷になる。誠実な瞳はそう語り、しかし悠太は見なかったことにした。
「迷惑?」
「迷惑だ。朝陽はまともに育てるんだ、父親である俺が男を愛することはできない」
「俺、愛してなんて言ってないよ」
まったく暁は律義だ。