本気であなたに恋をする | ナノ

03.王子は現在夢の中

しおり一覧

 暁に唇を奪われたことで呆然としていた悠太はなぜか緒方に拾われた。
 股間を蹴り上げたことは内緒で、悠太はいきさつを話した。
「まだ、好きなのか」
「わからないよ、もう」
 投げ槍に車の天井を見上げると、当然といった顔で悠太の車を運転する緒方は低く笑った。
「でも、刺さなくてよかった」
「……そうか」
「そうだよ」
「緒方、もしかして暁に言った? 俺が包丁持ってるって」
「なんでだ?」
「ベビーカーが空だった」
「なるほど」
 まったく聞く気のないらしい彼をじとっと睨むがやはりまともな返事はない。
「……どこに向かってるの」
「昼飯を食べられる所」
 しれっと言った緒方は悠太を見てにやりと笑った。
 道路沿いのラーメン屋に入り、注文し、食べて、会話らしい会話もなく別れた。
 緒方は暁を庇おうとはしなかった。幼馴染とはそういうものなのだろうか。

*****

『草場。暁の実家付近にあいつがいるから、拾ってここまで連れてこい』
 一方的に通話が切れた。
 ストーカーとふたりきりにしていいのかと首を傾げながら悠太はカーナビに緒方が指定した住所を入力した。
 連れてこいと言われた意味は、暁を見たらすぐにわかった。ベビーカーを引いて、幸せそうに笑っていたのだ。
「緒方から頼まれた。送るよ」
 暁は探るように悠太をじっと見つめたが、やがて満面の笑みを浮かべた。
「ありがとう、悠太。紹介するよ。俺の子、朝陽だ。女の子」
 その瞬間、ある仮説が浮かんだ。
 ありえない――もし間違っていたら、彼の誰よりも愛する人を侮辱することになる。
「朝陽ちゃん、かわいいね」
 やっとのことで絞り出した声に、後部座席の暁が笑ったのがわかる。

*前次#

back
MainTop

しおりを挟む
[34/55]


- ナノ -