02.硝子の棺は部屋の中
「まだ暁のことが好きならやっちまえ。嫌いならやめとけ。緒方はそう言った」
「ふうん」
「きみには、俺が殺す価値すらないんだ」
暁を傷つけたくて仕方がないと叫ぶ瞳が愛おしくて仕方がない。
今日だけ。
今だけでいいから、さ。
「ならさあ、悠太」
「……なあに」
「今夜、俺と泊まらない?」
絶句している悠太に再び唇を重ねる。
俺にも、夢を見せて。
*****
「しばらくこの家とお別れかあ」
両親の位牌を入れた手提げを抱き締め、真朝は笑う。
「朝陽、ばいばい――」
真っ直ぐに前を見据え、駅へ歩いていく姉の背を暁は見ることができなかった。
産まれたときよりだいぶん人間らしくなった朝陽はベビーカーの中から大人しく真朝を見送っている。
「……行くか」
ベビーカーを押そうとしたとき、近くの車からクラクションが鳴らされた。
驚いてそちらを見ると、誰かが運転席から手を振っている。それが誰かに気がついて、暁は剣呑に目を眇める。
車はゆっくりと暁の方へ近づいてきた。
「緒方から頼まれた。送るよ」
先日は気づかなかったが、半年前よりか幾分やつれている。アルバムの中でずっと会っていたから久しぶり、なんて言わない。
「ありがとう、悠太。紹介するよ。俺の子、朝陽だ。女の子」
見開かれた彼の瞳を見て、笑っていられる自身を褒めてやりたい。
朝陽を腕に抱き後部座席に乗り込む。新しいベビーカーは畳んでトランクに押し込んだ。
無言のまま、車は暁の実家を離れ現在の家に近づいていく。
「朝陽ちゃん、かわいいね」
バックミラー越しに注がれる視線。そして声は柔らかい。