02.硝子の棺は部屋の中
“親友”と笑顔で写っているそれを、暁は直視できなかった。
彼を愛した記憶はまだ暁の中に生々しい傷跡を残している。
緒方が戻ってきた。
「じゃあ、今日は帰る。また来る」
「え? あ、ああ、そうだね。ありがとう」
樋山と倉木を先に出し、緒方は振り返った。
「あのふたりを送ったら、戻ってくる。待っとけ」
「……ん」
玄関の扉が閉まる。
「緒方くんらしいというからしくないと言うか」
階段を下りてくる音が聞こえていたため、背後から話しかけられても暁は驚かなかった。
「過去より未来に生きろって言いそうなのにね」
真朝の言葉に頷き、リビングに戻った暁は再びアルバムに見入る。
「恋人が恋しくなった?」
「真朝こそ」
「んー……。でも、朝陽が産まれたらどうにでもなれってなっちゃった」
「そりゃあ、俺に託したんだからそうなるよね」
「無責任?」
「別に」
ふたりで顔を見合わせ笑う。
「真朝が結婚するとき、この子は何歳になってるかなー……」
チャイムが鳴り、真朝が緒方を迎えに行く。
「長い話になる。ふたりとも座ってくれ。あ、その前に名賀、お茶をください」
「はいはい」
出された紅茶のカップでしばらく手を温めていた緒方は、思い切りのよい彼らしくない表情を浮かべている。
まるで、何かに迷っているような。
「未婚で母親が父親に押し付けるような今回の場合、まともな大人の協力は得られないと思う。朝陽ちゃんが冷たい目で見られるのは俺も忍びない。両親にもこのことは話していない。知っているのは樋山と倉木に岸本、ようするに朝陽ちゃんを預かってくれる人間だけだ。一番いいのは、児童相談所に駆け込むことだと思ってる。だけど、それは嫌なんだろう?」
向かいに座った暁と真朝の顔を交互に見ながら、一息に緒方が紡ぐ言葉にふたりで頷くと緒方は嘆くように天を仰いだ。
「参ったな」