02.硝子の棺は部屋の中
何も知らない悠太。
騙し続けてごめん。
でも、ずっと愛してるよ。
別れと決めた時刻まであと少し。
それまでは幸せを感じていたい。
しかし実際には抱き締めただけ、暁は急かす悠太と共に夕食を口にする。
満腹になり、なんとなくそんな雰囲気になって一戦交えて。
「俺、子どもができた。別れよう」
甘い空気を切り裂いたのは、他でもない自分自身だ。
*****
12月24日の午前9時。
小さな医院の一室で、暁の娘が産声を上げた。
3時間を耐え抜いた真朝は病室でぐったりとしており、腕の中に抱えた朝陽を寂しそうに見つめている。
「暁」
「うん」
両親の葬儀のときも泣かなかった姉が、泣いている。
真朝の指先が暁の頬に触れる。
「泣かないで。この子を守ってくれるんでしょ……」
真朝の指先が暁の涙で濡れていく。
このまま何も異常がなければ4日後に退院する。
その前に役所に届けに行って、暁は正式にこの子の父親となる――。
「うん。守る。一生、朝陽を守るよ。幸せにする。だから真朝も」
目を見交わしただけで、相手の思っていることがわかる。
真朝から朝陽を受け取る。首の座っていない娘は、ひどく不安定な存在だ。
「朝陽。パパだよ。よろしくね……」
悠太との一瞬の幸せの代償は、この子の命として一生分の罪となったけれど。
今は素直に、朝陽の誕生を喜びたい。
*****
年が明けて、一周忌の準備をするために結局実家にいる時間の方が長くなった。