旅の途中 | ナノ

03.I'll be with you.

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 秋一からの誘いなんて久しぶりで、そわそわする心を宥めながら指定されたホテルの一室のインターホンを押す。
「久しぶりだな」扉を開け、微笑んだ秋一は瑞樹の首に腕を回しキスをした。
 あまりにも懐かしい感覚に違和感を覚える。
「……秋一?」
 困惑して彼を呼ぶも、秋一は愉しげに口元を歪めた。
「準備はしてある。――僕を抱け」
 喉が鳴った。彼に手を伸ばし、そして、瑞樹は床に転がっていた。
「っは」
 瑞樹に馬乗りになり嗤う彼は泣きそうな顔をしていた。
「僕は本当に甘い」
「……どういうこと?」
「瑞樹。僕と一緒に死んでくれ」
 こんなに美しく微笑んだ秋一を瑞樹は知らない。
 だけど、この言葉をずっと待っていた気がする。
 目を閉じるのと首が絞まる感覚が同時で、ああ、懐かしいなあとぼんやり思った。



“会ってほしい人がいるんだ”
 真司の兄、怜司の親友であり真司自身も慕っている木瀬和輝からメールが入った。
『レイも来るなら』
 ひとりで過ごす部屋の静かさに耐えられそうにもなく、嫌な予感がするもののそれすらもどうでもよくなってしまった。
 約束の土曜日。兄に会ってほっとするよりも先に、和輝の職場の後輩であるその女性を見て、真司は固まった。
「彼女、すごく博識なんだ。真司くんのレベルについていけるのは彼女くらいしかいないと思ってね。拝み倒したんだ」
 笹原すみれ。真司と同い年。そんな情報は耳を通り抜けていく。
「ごめんね、こいつも夏扇出身だからさ、勘弁してやって」
「はい。私も女子校出身ですから、真司くんの気持ちはわかります」
 何に驚いているか知っているくせに嘯く和輝を睨みつけて黙らせ、改めてすみれに向き合う。
「初めまして。緒方真司です。木瀬和輝の隣にいるのが私の兄の怜司で……、三人とも男子校出身なのでよくわからなくて……、失礼しました」
 彼女はにっこり笑った。
「私の弟も、幼稚園から夏扇なの。そのこともあって、木瀬さんとはお話が弾んで、かわいがっていただいてる」
 真司は直感した。俺はきっと、彼女に恋をする。
 ――外見、雰囲気があいつに似たすみれに。
 探るような和輝と心配するような怜司の視線を振り切り、ふたりで喫茶店で話し込んだ。
 すっかり意気投合した。知性と教養。優しさ、思い遣り。彼女自身が素晴らしい人間で、心が揺らぐ。

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