初デート
せっかくのデートだったのに!
「むすくれるなよ、瑞樹」
隣で苦笑するのは、恋人ではなく幼馴染。
*****
デートだった。
恋人になってから初めての。
デートしよう、と誘うときは、緊張しすぎて声が震えた。
「男同士だから、外でいちゃつくなんて見苦しい。だから――」と、告白したときでさえ、冷静に条件を突きつけてきた秋一。
でも、真剣に瑞樹に向き合い、愛してくれている。
それがわかっていたから端末越しにデートの誘いなんて、卑怯だと思った。
デートに誘うために、わざわざ秋一の家まで赴いた。
そして、意外にも彼ははにかみながら頷いたのだ。
やっと念願のその日を迎えたというのに!
「男同士かどうかはとりあえず置いといてさ、恋人が分別わきまえずにべたべたしてるのは確かに見苦しい」
さすが秋一だと感心してひとり頷いている幼馴染を今すぐ突き飛ばしたい。しないけど。
「恭介、俺の気持ち察してよ」
「察してるよ。秋一があっさりときみから離れて落ち込んでる」
「……そうだよ」
つい先程まで秋一と瑞樹は当て所なく繁華街を歩いていた。
一緒にいるだけで幸せ、だなんて柄にもないことを思いながら、じっと秋一の横顔を眺めていた。
視線に気づいた秋一がそっぽを向くのも、しばらくして罰が悪そうに瑞樹へ視線をよこすのも、全部、全部、俺のもの。
「あれ、瑞樹と秋一じゃん」
幼馴染の恭介が声をかけてくるまでは。
「デート?」
「そう」
瑞樹は誇らしげに答えた。恋人になるまでの経緯を知っていた樋山恭介は笑う。
ところが、秋一も笑っていた。そして、
「じゃあ、僕は帰るから」
「……え?」
「だって瑞樹、樋山と一緒にいるだろう?」
当然のように告げられ、恭介とふたりで言葉を失う。
「ちょっと待って、しゅうい――」
「じゃ、また。樋山もまたな」
「え? あ、ああ……、うん。秋一も元気で」