対立
*****
篠村の後輩は、黙って泣く癖があった。
篠村の後輩が強く優しく、傷つきやすいことは誰でも知っていることだった。
そして案の定、篠村が見つけたとき、ヒサはひとりで泣いていた。
近寄ろうとする篠村を視界に入れるなり背を向け、ピアノに凭れて、泣いていた。
黙って、後ろから抱きしめた。
かつてこの後輩が篠村を抱きしめたように。
「ごめん」
小さな謝罪とともに後輩が身動ぎをする。
そして篠村にしっかりしがみついたかと思うと、声を上げて泣いた。
篠村の胃の底が苦しくなるほど。
守りたいと、叫びたくなるほど。
2015.2.1