Short Story | ナノ

対立

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 篠村の後輩は、黙って泣く癖があった。
 篠村の後輩が強く優しく、傷つきやすいことは誰でも知っていることだった。
 そして案の定、篠村が見つけたとき、ヒサはひとりで泣いていた。
 近寄ろうとする篠村を視界に入れるなり背を向け、ピアノに凭れて、泣いていた。
 黙って、後ろから抱きしめた。
 かつてこの後輩が篠村を抱きしめたように。
「ごめん」
 小さな謝罪とともに後輩が身動ぎをする。
 そして篠村にしっかりしがみついたかと思うと、声を上げて泣いた。
 篠村の胃の底が苦しくなるほど。
 守りたいと、叫びたくなるほど。

2015.2.1

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