09.再び、初夜
ベッドではなくわざわざ布団を敷いたのは、もしかしたらこの感情が熱に浮かされただけかもしれないという恐怖、冷めるなら冷めろという諦めがあったからだ。
それでも真司の背を見つめ、大人しく待っていたすみれを抱き締めたとき、すみれとの境界がなくなる感覚がした。
「すみれさん」
ただ、名前を呼んだ。
言葉が喉を締め付けて、そして。
*****
すみれの妹、常葉はずっと不思議だった。
だから訊いてみることにした。
姉はあなたと結婚してから幸せそうです、と。
「それはね、常葉ちゃん」
義兄は生まれたばかりの姪を抱きながら、そっと恥ずかしそうに目を伏せた。
「私が、あなたのお姉さんに、すみれさんに幸せにしてもらったからですよ」
答えになっていないと思った。
傍らにいた常葉の従兄は苦笑して常葉の頭を撫で、
「きみも愛しい人を見つけたらわかるよ」
なんて、幼い子を見る目で言う。
常葉からそれを聞いたすみれはお腹の底から笑った。
――本当は全部、知ってた。
なんて言ったら、あなたはどんな顔をするのかしら。
中学に入り、恭介はすみれよりも学校を優先するようになった。
その理由は、男に熱を上げたからだと、友人から聞いた。
「悪い人じゃないよ?」
そういう問題じゃない。
すみれの家族は、恭介だけ。
長じて、恭介は水商売に身を落とした。
この男のせいで。
だから、職場の先輩からその名を聞いたときはチャンスだと思った。
私の家族を奪った人。
常葉には言えないけど、最初が最悪なんだもの。
あれ以上、ひどくなるわけないでしょう。
でもいつか真司に言ってやろうと思う。
あなたがね、幸せを感じてくれるなら私、生まれてきてよかったと思えるの。
生涯、幸せにするよう、努力するから。
見捨てないでね。
私の愛する家族。
終わり
2017年10月28日
町田そら