家族になるまで | ナノ

08.家族の時間

しおり一覧

 強がるくせに、真司の前では泣き虫な幼馴染を抱き締めた。
「お前も、朝陽ちゃんを自分で幸せにする責任を負え」
「うん」
 その涙を見て見ぬふりするぐらいには、真司も大人になった。

*****

 真司と暁が緒方家に移動し、すみれに戻ってきてと連絡を入れる。
 玄関先で待っていた暁と真司を見て、朝陽が立ち竦む。
 すみれが朝陽の肩にそっと両手を置いた。
「朝陽」
 暁が一歩進み、膝を床につけた。
「お父さんが悪かった」
 朝陽の目の怯えを見て、真司も胸が痛んだ。
 だけどそれ以上に、真司は幼馴染の味方でいたかったから、今は見守るしかない。
「一緒に、帰ってほしい。ごめん」
 暁が頭を床に擦り付けた。
「いいおとこはやすやすとあたまをさげない」
 意味がわかって言っているような言葉に、真司は思わずすみれを見た。
 すみれは苦笑し、軽く頷く。
「でもね、お父さんはあさひがいないとだめってことでしょう。いいよ。いっしょにかえってあげる」
 暁が勢いよく頭を上げる。
「あたまをあげていいとはいってないよ」
「ご、ごめんなさい」
「朝陽ちゃん。いい女は時と場合に応じて情けを掛けるものよ」
 再び地面と相対しそうな暁を見て、すみれが言葉を足す。
 朝陽は不服そうにすみれを見上げ、そして小さな声で言った。
「わかった。ゆるす」
 今度こそ暁は朝陽を抱き上げた。

*****

 玄関の扉が閉まる。
 笑顔で手を振っていたすみれが、ゆっくりと真司を見上げる。
 その熱の籠った視線に気づかないのはただの馬鹿だ。
 真司は黙ってすみれを抱き寄せ、唇を重ねた。


*前次#

back
MainTop

しおりを挟む
[77/79]


- ナノ -