家族になるまで | ナノ

08.家族の時間

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 真司は何も訊かずに、待ってると言った。
「ねえ、先に緒方と話したいんだけど。いいかな」
「じゃあ、俺だけお前の家に行こうか」
「お願い」

*****

 数週間ぶりに会った暁は、真司から見て思ったより元気そうだった。
 ソファに座り、ふたりで緑茶を啜る。
「朝陽、元気?」
「元気だ。今はすみれさんと動物園に行ってる」
「そう。ありがとう」
 暁は何を話そうかと思いあぐねるように視線を宙に固定している。
 真司は黙って暁が口を開くのを待った。
 緩やかな時間の流れに真司は目を閉じる。
「朝陽は俺を許さないと思う」
 途方に暮れたような声で目を開けた。
「俺さあ、朝陽とお別れしちゃって。そのとき結婚するから朝陽を捨てるって言っちゃったんだよね」
「そうか」
「そう」
 責めるわけではない、単なる相槌に暁は困ったような微笑を浮かべた。
「別に、今までみたいに、朝陽ちゃんと暮らしたっていいじゃないか。無理に結婚しなくても」
「勝手なこと言わないでよ。俺だって幸せになる権利があるだろう。 自分の血を引く子を抱いたって、文句はないはずだ」
 言った後に暁は恥じるように顔を覆った。
「どうしよう。きみのこと、責められないよ。血にこだわってるのは、結局は俺なんだ。朝陽も血の繋がった両親の元で育った方がいいって思った。だけどな、真朝の旦那とさあ、話した。女の価値を子どもを産む産まないで決めるような奴に家族は任せられないって言っちゃった。俺、朝陽の幸せ、潰したのかな」
 支離滅裂で追い詰められたように話す暁を、真司はじっと見つめた。
 掛ける言葉次第では、さらに追い詰めてしまう。
「お父さんには言わないで」
 考えながら吐き出す言葉はきっと、優しいものではない。
「朝陽ちゃんは恭介にそう言ったそうだ。暁。ペットじゃないんだぞ。家族、なんだぞ? そう簡単にころころと変えて、なんで手放せるんだって思う」
 言いながら、真司もまた傷ついた。その言葉は諸刃の剣だ。
「だけど、俺も恭介と別れた。手放して、すみれさんを巻き込んだ。前にお前が言った通りだ。俺には責任がある」


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