08.家族の時間
「いい加減なことを」
西原は信じられないというように目を見開き、視線をうろうろと真朝と暁の間を彷徨わせる。
「いい加減なことを言うな! その女と、やったんだろう! お前が! それで、俺に押し付けようとして!」
「あんた自分の奥さん馬鹿にするのもいい加減にしろよ」
自分でも驚くくらい低い声が出た。
「こいつ、俺の姉だけどね。あんたの奥さんでもあんの。何? 俺と真朝がやったって? 調べようか? 朝陽の血。父親は紛れもなくあんただろうね? どうしてくれんの」
「おおおおお俺に言ってない真朝が悪い」
詰め寄ると面白いぐらいに震え上がる男。
暁は口の端を上げた。
「そうだね、俺もそう思うよ。だけどね、結婚後でさえ、朝陽を俺から奪ってさえ、真朝はあんたに本当のことを言わなかったんだよ? あんたが信用に足らないから。もちろん、男を見る目がなかった真朝も悪いけどね」
「でも、それなら。俺が、朝陽ちゃんの父親なら、引き取――」
「てめえ黙れよ」
手なんか上げない。
だけど、頭の中では殺していた。
「女の価値を子どもを産む産まないで決めるような奴に、俺の家族、任せると思う?」
西原がその場にへたり込んだ。
暁は真朝をゆっくりと振り返る。
姉は泣いていた。
「真朝。朝陽は返してもらうよ」
真朝が頷く。
「荷物はどこ?」
指さされた先の段ボールの中身を確認し、小脇に抱える。
「じゃあ……元気でね」
「私は助けてくれないの」
玄関先で挨拶をすると、甘えたように真朝が言う。
これが、あの姉の言葉かと思うと泣けてくる。
「真朝」
姉よりもはっきりと身長が高くなったのは、中学に入ってからだった。
でもあのときは姉に敵わなかった。
「幸せは自分で掴むんだ」
自らを閉じ込める呪いを解き、その硝子の棺を打ち破れますように。
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暁は休日前に真司に連絡を入れた。