家族になるまで | ナノ

08.家族の時間

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 そもそも暁は姉の夫が嫌いだった。
 養えないくせに女に手を出すクズ。
 暁が未婚で子持ちであることへの蔑みを隠そうとしない。
 さらには子どもができないなら別れる?
 いくら真朝と暁に両親がいないからといって、ここまで舐められる道理はない。
「行くよ、真朝」
「待って、朝陽は」
「朝陽は大丈夫だから」
 かつて家族だった人の腕を引っ張り上げ、暁は支度を始めた。

*****

 暁が運転している間、真朝は泣き疲れたのか、窓の外を見たままぼーっとしている。
「真朝」
 呼ぶと、微かに首を暁の方へ向ける。
「朝陽は返してもらうよ」
 姉は何も言わなかった。
 西原家に着くと、義兄はまだいなかった。
 居間で真朝とふたり、義兄を待つ。
「いつもこんなに遅いの?」
 真朝は顔を背けた。まあ、想像はつく。
 暁もそれ以上を訊ねることはなく、時計は午前0時を指した。
 程なくして義兄の西原智陽が帰宅した。
「こんばんは。ご無沙汰しております」
 頭を下げるが、義兄は唇を歪めて笑い、それには応えなかった。
「やっと落ち着きましたか?」
 馬鹿にしたように噛んで含めるように西原は言う。
「どういう」
「朝陽ちゃんを引き取りに来たんでしょう。姉弟揃って、どうしようもない家ですね。姉は子どもを産めない。弟は未婚でふらふらして、子どもをこちらに押し付けてくるとは」
 暁は黙って聞いていた。
 義兄がつけあがればつけあがるほど、効果は大きい。
「しかもこんな夜中遅くに。非常識ですよ」
「朝陽が誰の子かご存知ですか?」
 不愉快そうに細められた瞳に、暁は笑った。
 こんな男、相手にするまでもない。
「あなたの子ですよ、西原さん。結婚前にふらふらしてたのはあなただ」
「聞いてない」
「言ってませんから。真朝はもっといい男と結婚すると思ってましてね。僕が引き取ったんです」


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