家族になるまで | ナノ

08.家族の時間

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 職場から帰宅するまで携帯電話が鳴りやまない。
 誰かも確認せずに放っておいたらいつしかやみ、今度はインターホンが鳴る。
 覗き穴の先には目を吊り上げ、悪意そのものが具現化したような姉がいた。
 何やら叫んでいる。
 待って待ってなんで。
 今度は俺、何もしてないよね?
 疑問を持ったまま扉を開けるなり暁は押し倒された。
「返して!」
 姉の金切り声と共に首が圧迫され、暁は無我夢中で横に転がり真朝を振り落とす。
「返して! 返してよ! いるんでしょ!」
 真朝はよろめき立ち上がった暁の背中を叩き、脚を蹴り、形振りを構ってはいなかった。
「待って、真朝、落ち着いて」
 暁が真朝を居間へ引き摺り、座らせ、その肩に手を置いて目を合わせても、姉は泣きじゃくるばかりで話にならない。
「真朝。真朝」
 名前を呼んでも、姉に聞こえている様子はない。
 そのうち、また携帯電話が鳴った。
 相手を確認すると、真司だった。
 廊下に出て応じる。
「悪いけど」
「うちにいる」
 それだけで困り顔が浮かぶくらい、困った声だった。
「何。またお節介?」
 姉は気づいた気配はないが、声を絞る。
「なわけないだろう。あいつが見つけたんだよ。変わろうか?」
 真司がそう親しげに呼ぶ相手といえば恭介以外にない。
「うーん……。ねえ、悪いけど預かってくれない? 聞こえてると思うけど、真朝がちょっと、おかしくてさあー……」
 暁は私の子を返してと叫び続ける姉をガラス越しに見遣り、床に視線を落とす。
「わかった。じゃあ、暁からの連絡待ちでいいな?」
「うん。ふたりにお礼、言っといて」
「ああ」
 通話は切れた。それと同時に、怒りに点火されたのを暁は感じる。
「西原さんは? なんでひとりでここに来たわけ? あの人、自分の子って知ってんの?」
「……知らない。でも、子どもができなきゃ、別れるって……いつか言えばいいと思って……」
「そんなに大事なことを話せない男なら別れろ!」
 久々に怒鳴った。真朝は驚きのあまり涙が止まっている。


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