08.家族の時間
「草場と別れまでしたのに」
なんできみがそんなにショックを受ける。
緒方も、樋山と別れたでしょう。
最初で最後の恋ではあったと今でも思う。
「それは関係ない。本当に一緒にいたかったなら、今でも一緒にいるはず。朝陽は関係ない」
「紹介してくれよ」
「まあ、ちゃんと決まったらね」
「お前、幸せなのか」
「正直言って、きみよりは」
「……正直すぎるな」
「すみれさんにもそんな顔、見せてるの」
正直な反応に溜め息が出た。
「きみ、愛想尽かされないようにね」
「もう尽かされてるかも」
「ああ、それがいい。彼女、本当にきみには勿体ないよ」
「俺もそう思う。なあ、暁」
「ん?」
「もう、いいんだな。朝陽ちゃんのことは」
「うん」
ごめんね、緒方。
「なら、俺は何も言わない。今度こそ」
「わかってるって。帰る?」
「ああ」
結婚を考えている相手もいる、なんて嘘まで吐いてしまった。
でもね。
もしきみが結婚して、幸せそうだったら。
俺も、結婚してみてもいいかも、なんて。
*****
その日、草場悠太はお姫さまを迎えに行った。
王子様ではない男の手を取る彼女はどこか躊躇いがちだ。
「お父さんのところへ戻ろうか」
「お父さんはあさひをすてた」
「そう。じゃあ、どこがいい?」
「樋山のおじさまのうち」
「……案内できる?」
幼子ははっきりと頷いた。