家族になるまで | ナノ

08.家族の時間

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 それは暁の本心だ。
 悩む時間があるなら、悩んでほしい。
 人に押し付けるには重たい願いだけど。
「恋ってどう思う」
「少なくともきみに恋したことはないよ」
「俺は、あると思う」
「そう」
 恋。
 真司が暁にかつて恋をしたというのなら、それはそれで喜ばしいと思う。
 何にせよ、真司が恭介以外に興味を持てた試しなど、既婚者となった今でさえないのだから。
 無責任でいられるうちが、恋ではないだろうか。
 朝陽を愛した今なら、暁はそう思う。
「恋ってどう思う」
「わからない」
 真司の納得のいく答えを暁は出せない。
 あっさりとした答えに、真司は首をかしげる。
 暁は小さく笑った。
「俺、恋したことないもん」
「あいつが聞いたら泣くな」
「とりあえず、プラスばかりではないと思うよ」
「ありがとう、暁。それで十分だ」
 何かに躊躇うように、真司が視線を彷徨わせる。
「お前、その、結婚を考えている人のこと好きなのか」
「わからないし、たぶん違う」
 だって誰もいないんだ、とは言えない。
「でもねえ、結婚ってなんとかなると思うんだよね。特にきみのところを見てたら」
「相手の気持ちは」
「きみがそれ言うー? だいたいきみは樋山に惚れたまま、未練たらしくすみれさんと結婚してさ」
 かわいそうなほど凍り付く真司の頭を撫でる。
「朝陽がわかってくれなくてもいいんだ。でも、俺のところにいるより幸せだと思う」
「傲慢だ」
 だろうね。
 人には手厳しい真司に、思わず暁の頬も引き攣る。
「朝陽ちゃんはお前が父親だと信じているのに」
 俺も我が子だと思ってる。
「そんなの時間が解決する」
「じゃあ、暁。寂しくないのか」
「寂しいよ。でも直に慣れる」


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