08.家族の時間
「泣いても、いい?」
真司に抱きしめると、体の震えが止まらず、泣いた。
朝陽、ごめん。
緒方、ごめん。
「俺が死んだら、朝陽はひとりになる」
言葉と共にどす黒い感情が胸を焼いていくようで、ますます気分が悪くなった。
「死ぬ予定があるのか」
茶化すのではなく、心の底から案じてくれる気持ちに頭を預けた。
「ない。だけど、わからない。俺の両親だって、死ぬ気はなかったと思う」
真司が黙り込むのを感じて、ますます悲しくなった。
「俺、朝陽を残して死ねない」
「どうしてまたそんな弱気に」
「真朝が、朝陽を引き取るって」
「今に始まったことじゃないだろう」
「子どもができないんだ」
戸惑う真司を見て、暁は歪んだ笑みを浮かべた。
未婚で妊娠して、既婚で不妊。
醜い感情は口には出さないけど、顔には出ているだろう。
「だからね、真朝のとこ、子どもできないの」
「でも朝陽ちゃんは」
「そう。だから、必死。引き取ったら引き取ったでさ、あの男の子どもかどうか揉めるに決まってるのに。ま、調べればわかることだけど」
「西原さんはどう言ってるんだ」
「さあ。ただ、まだ何も知らないみたい。でも、もう、俺のとこには帰ってこない。戸籍上養子になったとしても、引き取るって」
「そんなことはどうでもいい」
この親友もここ数年で随分と自由になった。
「お前はこれでいいのか」
「最善だと思ってる」
「お前にとって」
「最善だよ。結婚を考えている人も、本当にいる」
「いつの間に」
暁が指を真司の唇に押しあてた。
元を正せば、真朝を置いていった自分が悪い。
それさえなければ、朝陽は生まれなかった。
だけど、暁に幸せを教えてくれたのも朝陽だから、暁は朝陽の幸せを願う。
真司はまだ、始まってすらいない。
きみは幸せになって。
「きみはもう決断した。俺もね。だけどね、きみが壊れるくらいなら建前はどうだっていいよ」