08.家族の時間
「考えてた。朝陽は?」
「関係ないでしょ」
「つれてきて。お別れするから」
姉が弾かれたように奥へ向かった。
血を分けた姉とは思いたくないほど最悪だ。
「お父さん」
期待の浮かんだ顔に、心が絞られる。
抱き上げたい。
微笑みたい。
「朝陽。これから、おばさまの家の子になるの。おばさまが、お母さんになるの。おじさまがお父さんね」
膝を降り、目を合わせ、しかし光は冷たく。
「どうして」
「お父さんもね、結婚したくなったんだけど。朝陽がいたら、相手の人、駄目だって。だから、おばさまの家、ちょうどいいでしょ?」
「お父さんはあさひをすてるのね」
「そうだよ」
その瞬間、暁は床に転がった。
朝陽に胸を飛び蹴りされたのだと気づき、起き上がったときには奥から激しい泣き声が聞こえてきて、でももう、その涙を止めることはできない。
「服とか、いろいろ、こっちに送るけどさあ……」
暁にはどうしても言っておきたいことがあった。
「妻がこんなことをしても何も言わないような男と結婚させるために、朝陽を引き取ったわけじゃない」
「言いたいことはそれだけ?」
勝ち誇ったような真朝は、もう暁の知る姉ではない。
こんなところに朝陽を置いていくのか。
一瞬、気持ちが揺れた。
それでも暁を責めるような朝陽の泣き声を聞きたくなくて、暁は外へ出た。
帰宅して荷造りをし、真朝のところへ送るよう集荷する。
選別をするために散乱した衣服が居間に散らばっている。
捨てたふりをして捨てられた。
*****
真司がゲイですらないかもしれないと悩み、暁へ電話を掛けてきた。
なんて甘いと笑っていたが、
「お前、朝陽ちゃんを育ててから、変わったな」
これは笑えなかった。
「朝陽は俺の子だ」