08.家族の時間
朝陽が唇を引き結ぶ。
その表情は、暁にそっくりだった。
暁。
俺、あなたに会いたい。
「ねえ、おじさま。つれていって」
「お父さんのところ?」
「おばさまのところ」
聞き間違いかと思った。
「どうして」
「おばさまはお父さんをいじめるから。あさひはお父さんを守ります。だから早く」
子どもにまで見破られるなんてあのばばあ大丈夫か。
うっかり悠太らしからぬはしたない言葉遣いが出るほど、呆れた。
「朝陽ちゃん、お父さん、守るの」
はっきりと頷く。
じゃあ俺も、別の形で守ってあげる。
「一度だけ、迎えにいってあげる。だからそのとき、お父さんのところに帰りたかったら、一緒においで。でもこれは、おばさまには秘密だよ」
瞳の奥が、はっきりと揺れる。
「朝陽ちゃん。お父さん好き?」
「好き」
「そっかあ。俺もね、大好きなんだよ」
インターホンを鳴らすと、魔女が出てきた。
お姫さまを引き渡す。
ごめんね。
ハッピーエンドにするから。
少しだけ眠っててよ。
馬鹿な大人が目を覚ますまで。
*****
暁は一晩、悩んだ。
翌朝は仕事を休んだ。
前にもこんなことがあった。
ああ、悠太と別れたときだ。
保育園に欠席連絡をした。
今日は絶対に登園しないとわかる。
暁に朝陽を奪い返されては困るから。
そして、真朝の家へ向かう。
はたして真朝はそこにいた。
「遅かったね」