08.家族の時間
威嚇するような叫びに、悠太は笑った。
「馬鹿にしているホモに頼らないといけないほど切羽詰まった哀れな人ですね。笑っちゃいます」
そしてそれに乗ってしまう自分は大馬鹿者だ。
暁の幸せはもう、結婚や子どもではない気がする。
あれ以来、会っていない悠太でもわかる。
じゃあ、暁の不幸は?
――朝陽を奪われること。
それでも、同級生が結婚するというニュースは悠太にとって暁への恋慕を募らせるには十分だった。
だけど、この恋は本気の恋だったから。
暁のために、なるとしたら。
その可能性に、心が甘く揺れた。
「選ぶのは俺じゃありません。朝陽ちゃんです」
真朝はさながら、毒林檎を持った魔女。
いや、違う。
「早く、出ていってください」
歪んだ笑みを浮かべ、真朝は出ていった。
それを届けるのは、悠太だ。
*****
悠太が不安になるくらい、あっさりと朝陽を連れ出すことができた。
「あなた、おばさまの愛人?」
「……違うよ」
どうしてそんな恐ろしい発想ができるのか。
悠太は首を傾げた。
「おばさま、言ってた。緒方のおじさまの結婚式のとき、男の人が迎えにくるって」
「そう。知らない人についていっちゃいけないって、パパに言われなかった?」
軽蔑の色が浮かぶ瞳が悠太を見上げる。
公園のベンチに座って、歩き始めたばかりの子が駆けるのを見た。
「朝陽ちゃんのパパはね、朝陽ちゃんのパパじゃないんだよ」
「あさひにパパはいません」
幼子と侮れば、しっかりとした意思を持った瞳と声に悠太は押された。
暁は自分を父と教えていないのか。
「一緒に住んでるのは?」
「あさひのかぞくは、お父さんだけです」
なるほど、呼び方が違う。
しかし、それだけとは思えない違和感がある。
「そう言えって言われた?」