家族になるまで | ナノ

08.家族の時間

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「暁はあなたの自由にしていいから」
 悠太の目がすっと細くなった。
「見くびらないでいただきたい」
「ホモって時点で、馬鹿でしょう」
「仮に俺がホモだとして。あなたの弟にそこまでの価値はない」
「じゃあ、暁が不幸になってもいいの?」
 意地悪く弧を描いた目に吐き気がした。
「脅そうっていうのか」
「だってあの子、結婚しないよ? 責任を取ってあなたと別れた子だもの。わかるでしょ?」
「元はと言えばあなたが見境なく子どもを産むから」
 弟も話を聞かない人間だったが、どうやら姉もそうだったらしい。
 なんとなく思い出して、酸っぱい気分になる。
「暁がホモなのが悪いの」
 吐き捨てるように真朝は言う。
 醜い。
 表情も雰囲気も声も内容も。
「それに、あの子といたってことは、あなた、優しいでしょう」
 ねっとりと誘惑するように。
「あの子、あれから恋人いないの。男も、女もね」
 歪んだ笑みを貼りつけながら。
「あなた、知ってる? 緒方くんでさえ結婚するのよ」
 時が止まった気がした。
「え? 誰と? 男?」
「なわけないでしょ。私の親友。ああ、だけど……」
 勿体をつけるな。
 でも聞きたくない。
「樋山恭介くんの、従妹。顔がそっくりな、ね」
「あんた、最低だな」
 この女は知ってる。
 悠太は確信した。
 お人好しな同級生。
 元恋人の相棒。
 緒方真司を説明する言葉は悠太にとって多くあれど、そんな悪趣味な人間のはずがない。
「ホモに言われたくない。子どもを産めないくせに」
 この人はいったい、何にそんなに傷ついているのだろう。
 悠太はぼんやりとそんなことを考える。
「証拠は残さない。だから連絡はいらない。でもね、気が向いたら、迎えにいって。そしてうちにつれてきて」
「あなたは愛されたことがないんですね」
「うるさい!」


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