家族になるまで | ナノ

08.家族の時間

しおり一覧

 多少、苛立ち交じりの声に暁は余裕を取り戻した。
「じゃあ、産んだけど育ててない真朝ならなんとかなるの? 血が繋がってるだけでしょう? どうせ子どもを作ったら、朝陽を捨てる」
「大丈夫よ」
 冷静とは違う、ひやりとした声音で。
 理不尽な怒りをぶつけるように、静かに真朝は言った。
「私、子ども産めないの」
「じゃあ、朝陽は誰の子だっていうの」
 暁は失笑した。
 だってあの日、この腕に抱いたのは。
「なんで朝陽ができたかはわからないけど。だから、私が朝陽を引き取るのは当然でしょう?」
「朝陽は、実子じゃなくなるよ?」
 この姉がこだわりそうなことを突く。
 しかし姉は予想していたらしい。
 暁の苛立ちを馬鹿にするように、ゆっくりと姉は言葉を吐き出す。
「そんなの、些細なことでしょう? だって、私が産んで、あの人の血も引いてるんだもの」
「朝陽! 絶対に、迎えに行くから!」
 もう何も聞きたくはなかった。
 携帯電話の向こうに聞こえるように大声で怒鳴った。
 そして通話は切れた。
 切れてしまった。
 真司に電話しようとして開いた電話帳を見つめた。
 きつく目を閉じ、電源を切った。
 真司は絶対に暁の味方をする。
 朝陽の幸せなど二の次にして。
 ――もし暁が死んだら、朝陽はひとりになる。
 両親を一夜にして失った暁に常に付き纏っていた不安が肉親によって突きつけられる。
「朝陽」
 その幸せを願うから。

*****

 朝陽をつれてきて。
 元恋人の姉は草場悠太を訪ねてくるなり、そう言った。
「あの、何を」
「暁のところが嫌だったら、朝陽はうちに来ることになってるんだけど、私だと朝陽が来ないから」
「それ、誘拐っていうんですよ」


*前次#

back
MainTop

しおりを挟む
[63/79]


- ナノ -