07.夫婦の時間
「僕,努力します。急に我儘は治らないけど。だけど,努力,します。だから,すみれさんのところに帰りたい。捨てないでほしい」
こうやって同情を誘い,縋りつくことしかできない。
すみれが再び,真司を抱き締めた。
「私ね,よく預けられてたの」
なんとなく気分が高ぶったまま,ソファに二人で腰掛けるとすみれが話し始めた。
「朝陽ちゃんくらいのとき。恭ちゃんの家に」
「そこから先を,聞いても?」
「話してもいい?」
「もちろん」
すみれは困ったように笑った。
「妹が生まれて。兄は兄で音楽以外見えてなかったから。恭ちゃんはずっと,私を守ってくれた」
その頃を知らない真司でも容易に想像ができた。
あいつは優しいから。
「同居してるし,籍も入ってる。だけどあなたは家族じゃないの。寂しい……。私にとって,たぶんあなたにとっても」
これはかなり堪えた。どうすればいいかわからず顔を逸らした。
「なんでかって,ずっと考えてたの。今日一日。恭ちゃんが朝陽ちゃんをつれてくるまで」
何かを決意したような視線。
「真司さんと家族になりたいから,言うね。私,恭ちゃんが家族なの」
どこかで予想はしていた。
嫉妬も湧かなかった。
「結局,私自身の問題なの。昨日,真司さんにひどいこと言ったけど。ごめんなさい……。いい年して過去に捕らわれてって思う?」
「思わない」
即答してしまった。
だって,仕方がない。
真司だってあいつを忘れられないのだから。
「その,子どもは……別に,いいと思う。無理して作るものじゃない。どうやって家族になるかっていうのも……すみれさんと一緒に過ごして,すみれさんと一緒に,見つけていけたら……と思う。俺自身の逃げでもある」
すみれは微笑んだ。
「朝陽ちゃんを見てて思ったんだけど。小さい頃のおままごとの何が楽しいかって。理想がいっぱい詰まってるの。もちろん,シビアなことも言ってるときがあるけど……」
そこから先は,真司も想像できた。
「私もあなたも,夢を見てるのよ」
いつか幸せな家庭を夢見て。
これもまた夢だったらと思って。
「終わりにしましょう」